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鴻鵠の志、燕の志

月14日戌の刻。

五山送り火が灯される直前の京都で長男が生まれました。

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粉青盃 萬々歳

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「鴻太郎」と命名しました。

陳勝の、燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんやの故事より名づけました。

長女のくぐい(鵠)とともに志を見つけ大きく羽ばたいてほしいと願っています。

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産の二日前に不思議な体験をしました。京都・岡崎の書店を出ると一羽の燕がスーッと飛んできて私の腕に止まったのです。カバンから携帯を取り出し自撮りするまでの時間、腕にとどまっていました。観光客でにぎわう街中での椿事に、周囲の人たちも驚いていました。もちろんこのような体験は人生で初めて。そしてこの瞬間、無事に子どもが生まれることを確信しました。
命名には鴻の字をつけようとしていたのですが、くぐいの命名がそうであったように出産直前の出来事に敏感であった私は燕の名になにか因めないかと色々探していた中、白居易の「燕詩」に出会いました。

燕詩   白楽天
梁上有双燕  翩翩雄与雌   梁上に双燕あり   翩翩たり雄と雌と
銜泥両椽間  一巣生四児   銜泥両椽の間    一巣に四児を生ず
四児日夜長  索食声孜孜   四児日夜長じ    食を索むる声孜孜たり
青蟲不易捕  黄口無飽期   青蟲捕へ易からず  黄口飽くる期無し
觜爪雖欲弊  心力不知疲   觜爪弊れんと欲すといへども 心力疲れを知らず
須臾千来往  猶恐巣中飢   須臾千来往     猶ほ恐る巣ど中の飢を
辛勤三十日  母痩雛漸肥   辛勤三十日     母痩せ雛漸く肥ゆ
喃喃教言語  一一刷毛衣   喃喃として言語を教へ 一一毛衣をかひつくろふ
一旦羽翼成  引上庭樹枝   一旦羽翼成る     庭樹の枝に引き上ぐるに
挙翅不回顧  随風四散飛   翅を挙げ回顧せず  風に随い四散して飛ぶ
雌雄空中鳴  声尽呼不帰   雌雄空中に鳴く    声尽くるまで呼べども帰らず
却入空巣裏  啁啾終夜悲   かえりて空巣のうちに入り 啁啾して終夜悲しむ
燕燕爾勿悲  爾当返自思   燕よ燕よ汝悲しむこと勿れ 汝まさに自ら思ひ返すべし
思爾為雛日  高飛背母時   思へなんじ雛たりし日    高飛し母に背ける時を
当時父母念  今日爾当知   当時の父母の念     今日なんじまさに知るべし


この詩に出会い、子供に燕の名をつけるのをやめました。なぜなら京都の燕は私が親燕になるのだと教えに来たのだと思ったからです。子供が包蔵する潜在能力は計り知れません。私のような親燕が思い抱くより大きな志をもって未来へ羽ばたく大鳥となり、やがて巣立っていくのでしょう。あのツバメはその時が来るまで能うかぎりの心力をもって青蟲を与えよ、と激励しにきたのだと信じます。

かもめはかもめ、孔雀や鳩にはなれない。ドジョウが金魚のまねをすることはない。

燕は燕で、この子を全力で見守りたい。それが燕の志であります。


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祝福の器を作ってみました。

いつかくぐいと鴻太郎が大空に羽ばたき隠居できる余力があったなら、燕志庵(ancient《英》,ancien《仏》,年寄り)という、子供にはつけきらなかったキラキラネームを号し都々逸でも作りたい。

祝福のことばを寄せてくださった多くの方々と大仕事をやり遂げた妻に感謝したいと思います。



by tou-kasho | 2017-08-26 13:30 | 日々の暮らし

陶芸家 菊池克の雑記帖


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