二年ほど前、くずし字に親しもうと思い図書館でふと江戸戯作文学である黄表紙を手にしました。江戸時代の大人向けの絵本、といった所でしょうか。最初に読んだのは山東京伝の「江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)」。団子鼻の主人公、艶二郎が自分は沢山の女に焼き餅を焼かれる色男だと世間に思い込ませるため、金持ちなのを良いことに大枚をはたいて涙ぐましい数々の画策を打つ、という話でした。くだらないけれど愛おしく、またその発想の素晴らしさに引き込まれてしまい、すっかり山東京伝のファンになってしまいました。また、挿絵は当時の器が生活にどのように溶け込んでいたのかを知る貴重な資料でもありました。
人の縁の妙は人生が長くなればなるほど一層感じるもので、今年知人の紹介で食べに行った祇園の食たくかとうさんでご主人と話していたところ、奥様が山東京伝研究の研究者・有澤知世さんということが判明しました。ちょうど前述の艶二郎の団子鼻(京伝鼻と呼ばれている)をモチーフに器を作ろうと思っていた頃で、後日本人とお目文字叶い、おすすめの京伝の著書やくずし字のアプリを教えていただいたりしました。
見栄っ張りな放蕩息子・艶二郎いつの時代もおバカは変わらない。
11月のしぶや黒田陶苑での個展では「京傳鼻盃」を発表することができ、思いの外ご好評を賜り完売となりました。完売後有澤先生がご来廊され、お見せすることはできませんでしたが京傳鼻盃完成のご報告をすると大変喜んで下さいました。後日、資料と共にお手紙を送って下さり、京伝の晩年の作「気替而戯作問答」の中でその鼻が飛んでいってしまうことを教えて下さいました。なんともシュールな京伝ワールド。京伝の他の作品も現代のギャグ・ナンセンス漫画にも通ずる奇天烈な世界が展開されるものが沢山あり、今後も時間を作って読み続けていこうと思います。そしてまた、京伝をモチーフにした作品を作ってみようと思います。
有澤先生、ありがとうございました!!
「気替而戯作問答」と京傳鼻盃奇しくも今年はこの作品の出版200周年でした。挿絵は歌川豊國。
飛んでいった鼻は200年の時空を超えて現代に盃となって現れたのでした(笑)
鼻で笑いながら酒を楽しんで頂ければ、という気持ちで作りました。